p1 国家公安委員会告示第四十一号 障害を理由とする差別の解消に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)第十一条第一項の規定に基づき、国家公安委員会が所管する事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針を次のように定めたので、告示する。   平成二十七年十一月十七日                              国家公安委員会委員長 河野 太郎    国家公安委員会が所管する事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針   第1 趣旨 この指針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号、以下「法」という。)第11条第1項の規定に基づき、また、法第6条第1項の規定に基づく障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)に即して、法第8条に規定する事項に関し、国家公安委員会が所管する分野における事業者(以下「事業者」という。)が適切に対応するために必要な事項を定めるものである。 p2   第2 法制定の経緯及び法の基本的な考え方     1 法制定の経緯  我が国は、平成19年に障害者権利条約(以下「権利条約」という。)に署名して以来、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正を始めとする国内法の整備等を進めてきた。法は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害者差別の解消を推進することを目的として、平成25年に制定された。   2 法の基本的な考え方  (1) 法の対象となる障害者は、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者、すなわち、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常性格又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」である。これは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。以下同じ。)その他の心身の機能の障 p3 害(難病に起因する障害を含む。)のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。  (2) 法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象としている。ただし、事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされている。   第3 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方  1 不当な差別的取扱い(法第8条第1項関係)  (1) 不当な差別的取扱いの禁止 事業者は、法第8条第1項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱い(以下「不当な差別的取扱い」という。)をすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 p4 ア 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯等を制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けること等により、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。 なお、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではない。 イ したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱い、及び合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。 事業者は、不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事業について、本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。 (2) 正当な理由の判断の視点 正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供 p5 を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。事業者においては、正当な理由に相当するか否かについて、個別の事案ごとに、障害者、事業者及び第三者の安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止その他の権利利益の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。 また、事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努めることが望ましい。   (3) 不当な差別的取扱いの具体例 以下のアからオまでの具体例は、不当な差別的取扱いに当たり得る。 ア 障害があることを理由に窓口対応を拒否する。    イ 障害があることを理由に対応の順序を劣後させる。    ウ 障害があることを理由に、資料の送付、パンフレットの提供等を拒む。    エ 障害があることを理由に説明会、シンポジウム等への出席を拒む。 p6    オ 障害があることを理由に、事業の遂行上、特に必要ではないにもかかわらず、来訪の際に付添人の同行を求めるなどの条件を付けたり、特に支障がないにもかかわらず、付添人の同行を拒んだりする。 なお、事業者は、不当な差別的取扱いに相当するか否かについては、1(2)で示したとおり、個別の事案ごとに判断されることに留意するとともに、上記アからオまでの具体例については、正当な理由が存在しないことを前提としていること及びこれらはあくまでも例示であり、記載されている具体例だけに限られるものではないことに留意する必要がある。  2 合理的配慮(法第8条第2項関係) (1) 合理的配慮の基本的な考え方  事業者は、法第8条第2項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)を p7 提供するように努めなければならない。 ア 権利条約第2条において、「合理的配慮」は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について合理的配慮を行うことを求めている。合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。 p8  事業者は、合理的配慮とは、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること及び事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。 イ 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものである。当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、「(2)過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものである。さらに、合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。事業者は、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとする。 なお、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境の整備を考慮に入れることによ p9 り、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。 ウ 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達等、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。 また、障害者からの意思表明のみでなく、知的障害や精神障害等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。 なお、事業者は、意思の表明が困難な障害者が、家族、介助者等を伴っていない場合等、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。 エ 合理的配慮は、障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化、介助者等の p10 人的支援、情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状況に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。また、障害の状態等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要である。 オ 事業者は、同種の事業が行政機関等と事業者の双方で行われる場合は、事業の類似性を踏まえつつ、事業主体の違いも考慮した上での対応に努めることが望ましい。 (2) 過重な負担の基本的な考え方  過重な負担については、事業者において、個別の事案ごとに、以下のアからオまでの要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。 また、事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。 ア 事務又は事業への影響の程度(事務又は事業の目的・内容・機能を損なうか否か) P11 イ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) ウ 費用・負担の程度 エ 事務・事業規模 オ 財政・財務状況 (3) 合理的配慮の具体例 以下のアからウまでの具体例は、合理的配慮の提供に当たり得る。 ア 物理的環境への配慮の具体例 (ア)  段差がある場合に、車椅子・歩行器利用者にキャスター上げ等の補助をする、携帯スロープを渡すなどする。 (イ) 配架棚の高い所に置かれたパンフレット等を取って渡す。パンフレット等の位置を分かりやすく伝える。 (ウ) 目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、前後・左右・距離の位置取りについて、障害者の希望を聞いたりする。 P12 (エ) 疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった際、別室の確保が困難であったことから、当該障害者に事情を説明し、対応窓口の近くに長椅子を移動させて臨時の休憩スペースを設ける。 イ 意思疎通の配慮の具体例 (ア)  筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字、拡大文字等のコミュニケーション手段を用いる。 (イ)  意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認する。 (ウ)  書類記入の依頼時に、記入方法等を障害者の目の前で示したり、分かりやすい記述で伝達したりする。障害者の依頼がある場合には、代読や代筆といった配慮を行う。 (エ)  比喩表現等が苦手な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現等を用いずに説明する。 (オ) 知的障害者から申出があった際に、ゆっくり、丁寧に、繰り返し説明し、内容が理解されたことを確認しながら応対する。また、なじみのない外来語は避ける、漢数字は用いない、時刻は24時間表記ではなく午前・午後で表記するなどの配慮を念頭に置いたメモを、必要に応じて適時に渡す。 p13 ウ ルール・慣行の柔軟な変更の具体例 (ア)  順番を待つことが苦手な障害者に対し、周囲の者の理解を得た上で、手続の順番を入れ替える。 (イ)  障害者が立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の者の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意する。 (ウ)  スクリーンや板書等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保する。 (エ)  他人との接触、多人数の中にいることによる緊張により、不随意の発声等がある障害者の場合、当該障害者に説明の上、施設の状況に応じて別室を準備する。  なお、事業者は、合理的配慮については、2(1)イで示したとおり、具体的場面や状況に応じて異なる多様かつ個別性の高いものであることに留意するとともに、上記アからウまでの具体例については、2(2)で示した過重な負担が存在しないことを前提としていること、事業者に強制する性格のものではないこと及びこれらはあくまでも例示であり、記載されている具体例に限られるものではないことに留意する必要がある。また、事業者においては、この指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔 P14 軟に対応することが期待される。   第4 事業者における相談体制の整備 事業者においては、障害者及びその家族その他の関係者(以下「障害者等」という。)からの相談等に的確に対応するため、既存の相談窓口等の活用や窓口の開設により相談窓口を整備することが重要である。 また、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報を周知することや、相談時の配慮として、対面のほか、電話、ファックス、電子メール等の多様な手段を用意しておくこととともに、実際の相談事例については順次蓄積し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望ましい。 第5 事業者における研修・啓発 事業者は、障害者に対して適切に対応し、また、障害者等からの相談等に的確に対応するため、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、障害に関する理解の促進を図ることが重要である。 第6 国家公安委員会が所管する事業分野に係る相談窓口  国家公安委員会が所管する事業分野に係る相談窓口は、その事業分野ごとに、当該事業分野における法第 p15 12条の権限に係る事務を所掌する課(警察庁の内部部局の課(課に準ずるものを含む。)をいう。)とする。    附 則  この告示は、法の施行の日(平成二十八年四月一日)から施行する。