視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第二期)(案) 令和7年3月 文部科学省 厚生労働省 目次 I はじめに 1.法律成立までの背景やこれまでの経緯 2.基本計画について 3.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る意義と課題 U 基本的な方針 1.アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供 2.アクセシブルな書籍等の量的拡充・質の向上 3.視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮 V 施策の方向性 1.視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係) 2.インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10条関係) 3.特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(第11条関係) 4.アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12条関係) 5.外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(第13条関係) 6.端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援(第14条・第15条関係) 7.アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(第16条関係) 8.製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17条関係) W 基本的施策に関する指標 X おわりに T はじめに 1.法律成立までの背景やこれまでの経緯  令和元年6月21日、議員立法により、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(令和元年法律第49号。以下「読書バリアフリー法」という。)が成立した。 その背景として、平成26年の国連における「障害者の権利に関する条約」の批准や、同条約の締結に向けて「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)をはじめとする様々な国内法制度の整備が行われるなど、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けた取組が進められたことがある。 また、平成25年6月27日に世界知的所有権機関(WIPO)による、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(以下「マラケシュ条約」という。)が採択され、平成30年に我が国は同条約を批准し、著作権法の一部改正も行われた。その際、衆議院・参議院の両委員会において、「視覚障害者等の読書の機会の充実を図るためには、本法と併せて、…(略)…当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進その他の環境整備も重要であることに鑑み、その推進の在り方について検討を加え、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること。」との附帯決議がなされたことが、その後の読書バリアフリー法制定の動きを加速化した。 令和元年6月に読書バリアフリー法が成立・施行された後、読書バリアフリー法第7条に規定する「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という。)の策定に向けて、読書バリアフリー法第18条に規定される関係行政機関等や、公立図書館及び点字図書館等の関係者、出版業界、視覚障害者等の当事者団体の関係者等による「協議の場」(以下「関係者協議会」という。)の第1回を同年11月に開催した。関係者協議会における議論やパブリックコメントなどを経て、令和2年7月に、令和2年度から令和6年度までの5年間を計画期間とする基本計画(第一期)を策定した。 基本計画(第一期)の策定後、第一期基本計画期間中に関係者協議会を7回にわたり開催した。関係者協議会では、基本計画に記載の各施策に関する進捗状況の確認や関係者との協議を行うなど、読書バリアフリー法にかかる各施策の課題解決、及び促進に向けた取組を進めた。 また、令和4年5月には、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(令和4年法律第50号。以下「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」という。)が公布・施行されるとともに、令和6年4月からは、障害者差別解消法の改正法が施行され、それまで努力義務だった民間企業における障害者への合理的配慮の提供が義務化されるなど、社会全体として情報保障への関心が高まりを見せている。 2.基本計画について (1)位置付け 読書バリアフリー法は、障害者の権利に関する条約や障害者基本法(昭和45年法律第84号)の理念にのっとって、障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とするものである。 読書バリアフリー法第7条第1項には、「文部科学大臣及び厚生労働大臣は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」を定める旨の規定があり、この基本計画には、基本的な方針、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策その他必要な事項を定めることとされている。 また、同条第3項及び第4項では、基本計画を策定するときは、あらかじめ、「経済産業大臣、総務大臣その他の関係行政機関の長に協議」することを定めているとともに、「視覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる」ものとされている。加えて、第18条において、国は、「施策の効果的な推進を図るため、…(略)…関係者による協議の場を設けることその他関係者の連携協力に関し必要な措置を講ずる」ものとされている。これらの規定に基づき、本基本計画は、関係者協議会を設置し、関係者から聴取した意見を踏まえて、策定されるものである。 なお、基本計画は、視覚障害者等の読書環境の整備を通じ、障害者の社会参加・活躍の推進や共生社会の実現を目指すものであり、障害者基本法に基づく「障害者基本計画」の基本理念や方針を踏まえて作成する必要がある。また、基本計画の実現に向けた取組を進めることは、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の趣旨にも適うものであり、読書バリアフリー法第8条に定められているとおり、地方公共団体は国の基本計画を勘案し、各地域の取組状況を踏まえた視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画を定めることが望まれる(*1)。 (2)対象期間 本基本計画(第二期)は令和7年度から令和11年度までを対象とする。基本計画の策定後は、定期的に進捗状況を把握・評価していくものとする。 (3)構成 本基本計画は、この「T はじめに」、「U 基本的な方針」、「V 施策の方向性」「W 基本的施策に関する指標」及び「X おわりに」で構成される。 「U 基本的な方針」では、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本理念を示すとともに、各分野に共通する横断的視点や、施策の円滑な推進に向けた考え方を示している。 「V 施策の方向性」では、読書バリアフリー法第9条から第17条までに規定する9の分野の基本的施策について、本基本計画の対象期間に国が講ずる施策の方向性を示している。 「W 基本的施策に関する指標」では、読書バリアフリー法第9条から第17条までに規定する、関係省庁等が実施する施策について、その進捗状況を確認するための指標についてまとめて示している。 「X おわりに」では、計画に基づく取組を進めるに当たり念頭に置くべきことなどを示している。 (4)基本計画の対象 読書バリアフリー法第2条第1項において、「視覚障害者等」とは、「視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍…(略)…について、視覚による表現の認識が困難な者」と定義されている。具体的には、視覚障害者、読字に困難がある発達障害者(ディスレクシア等)、寝たきりや上肢に障害がある等の理由により、書籍を持つことやページをめくることが難しい、あるいは眼球使用が困難である者(*2)であり、基本計画においてもこれらの者を対象とする。 なお、読書環境の整備に当たっては、視覚障害者等以外の、読書や図書館の利用に困難を伴う者への配慮も必要である。 また、乳幼児期から高齢期までの各ライフステージにおいて必要とされる様々な種類の書籍を考慮しつつ取り組む必要がある。なお、同項において、「書籍」には、雑誌、新聞その他の刊行物も含むこととしている。 3.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る意義と課題 読書は、乳幼児・青少年期、成人期、高齢期の一生涯にわたって、個人の学びや成長を支えるものであり(*3)、教養や娯楽のみならず、生活するために必要な情報を得る手段であり、教育や就労を支える重要な活動である。特に、学校教育段階においては、教科書以外にも(*4)、副読本、参考書、資料集、学術論文等が、学習や教育・研究に関連する活動の支えとなる。また、中等教育機関、高等教育機関及び職業教育機関への選抜試験の受験、進学や、資格取得のほか、就職活動、職業生活等の人生のあらゆる段階において、書籍を通じて専門的知識を得ることが不可欠である。 一方で、我が国においては、令和6年4月から、改正障害者差別解消法の施行により、合理的配慮の提供義務の範囲が民間企業まで拡大されたところだが、障害者等への利用の保障を、そのサービス等を行う者自らがおこなう機運が乏しい。読書バリアフリー法の施行から5年が経過したが、視覚障害者等(*5)が利用しやすい書籍等は必ずしも十分に整備されているとは言えず(*6)、障害の有無にかかわらず全ての国民が文字・活字文化を等しく恵沢できる状況とはなっていない。 視覚障害者等の読書環境の整備を推進するため、読書バリアフリー法は、第3条で「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の普及が図られるとともに、視覚障害者等の需要を踏まえ、引き続き、視覚障害者等が利用しやすい書籍が提供されること」等を定めている。 読書バリアフリー法第2条第2項において、「視覚障害者等が利用しやすい書籍」(以下「アクセシブルな書籍」という。)とは、「点字図書、拡大図書(*7) その他の視覚障害者等がその内容を容易に認識することができる書籍」と定義されており、例えば点字図書、拡大図書、音訳図書、触る絵本、LLブック(*8)、布の絵本等がある。 また、読書バリアフリー法第2条第3項において、「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等」(以下「アクセシブルな電子書籍等」という。)とは、「電子書籍その他の書籍に相当する文字、音声、点字等の電磁的記録…(略)…であって、電子計算機等を利用して視覚障害者等がその内容を容易に認識することができるもの」と定義されており、例えば、EPUB(*9)等の音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書(*10)、オーディオブック(*11)、テキストデータ等がある。 視覚障害者等による、これらのアクセシブルな書籍及びアクセシブルな電子書籍等(以下「アクセシブルな書籍等」という。)に関する状況と課題については、「借りる」と「購入する」の2つの側面から捉えられる。 「借りる」に関しては、点字図書館と公立図書館が、ボランティア・図書館協力者等の協力を得つつ、アクセシブルな書籍等の製作に取り組むとともに(*12)、窓口貸出・郵送貸出・宅配サービス・施設入所者へのサービス等の障害者サービス(*13)を必要に応じて展開してきており、視覚障害者等の情報保障の支えとなってきた。また、視覚障害等のある学生が在籍する大学や高等専門学校においても、学生からの求めに応じ、アクセシブルな書籍等の製作が行われつつあるとともに、特別支援学校(視覚障害)の一部においてもサピエ図書館(*14)との連携により、在籍する児童生徒が書籍等を利用できるよう環境を整えている。 一方で、これらのアクセシブルな書籍等の数がニーズに対して不足していることに加え、点字図書館と公立図書館においてアクセシブルな書籍等の製作等に協力する人材の確保が難しくなってきており、今後の継続的な提供体制には課題がある。 また、その他にも製作されるアクセシブルな書籍等の質が必ずしも担保されていない場合があること、サピエ図書館や国立国会図書館を含む、各図書館が所有する様々な形態のアクセシブルな書籍等の情報を共有する仕組みが構築されたものの、その周知が十分でない等の理由から、利用につながっていないことが指摘されている。更に、今後、アクセシブルな電子書籍等の販売が促進されるに当たり、視覚障害者等がそれらを点字図書館や公立図書館で利用できるようにする観点からの取組も重要である。 「購入する」に関しては、点字出版施設(*15)等が製作するアクセシブルな書籍に加えて、出版者が製作する合成音声読み上げや文字の拡大に対応できる電子書籍等が、少しずつ市場に出回ってきている。点字図書や拡大図書等の印刷物の利用者としては視覚障害者が中心となるが、アクセシブルな電子書籍等は、読み上げや文字の拡大、ルビ振り、分かち書き、フォントの変更等を可能にするなど、視覚障害者等の多様なニーズに対応することで、結果的に障害のない者にとっても利用がしやすく、アクセシブルな電子書籍等には、より大きな市場が期待できる。 その一方で、例えば音声読み上げに対応していないなど視覚障害者等にとって利用しづらい電子書籍等も少なくないこと、紙市場に比して電子出版の市場規模(推定販売金額)は、令和5年時点で5割程度まで伸長しているものの(*16)、そのほとんどは電子コミックで占められており、特に教育や研究において求められる電子書籍等は極めて少なく、点訳等に有効なテキストデータが十分に提供されていないこと等、多くの課題が残されている。なお、視覚障害者等のために、自社発行物の巻末に電子データの引換券を添付し、求めがあれば電磁的記録の提供を行うといった取組も存在するが、改正障害者差別解消法が施行された直後の現段階では、まだごく一部の出版社にとどまっているのが現状である。 更に、電子書店のサイトのアクセシビリティが不十分であること、電子書店ごとに異なるビューワーの使用を強いられ、それらのビューワーのアクセシビリティが十分でないという問題もある。また、電子書籍等に加えて、点字図書や拡大図書等の印刷物についても引き続き多くのニーズがあり、より多くの書籍が発行されることが望まれている。 前述のとおり、平成30年の第196回通常国会において成立した改正著作権法及び読書バリアフリー法や、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法第3条における「障害者が取得する情報について、可能な限り、障害でない者と同一内容の情報を同一時点において取得する」という基本理念を踏まえ、引き続き、近年の先端技術を活用した、効率的で持続可能な仕組みを構築する必要がある。 読書バリアフリー法第1条「障害の有無にかかわらず、全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とする」との規定に基づき、広く国民の理解と関心の増進に努める必要があり、全ての国民に対するアクセシブルな書籍等の認知度向上に向けた取組の推進が重要である。また、各図書館等においては、障害者のアクセシビリティを保障するということを、「障害者サービスの提供」という側面だけで捉えるのではなく、地域共生社会の実現という考えを持って臨むことが重要である。 *1 地方公共団体について、令和6年2月1日現在の計画の策定状況は、既に策定済みの自治体は33(都道府県19, 指定都市3, 中核市11)、現在策定作業中の自治体は34(都道府県19, 指定都市6, 中核市9)、策定に向けて検討中の自治体は20(都道府県9,指定都市5,中核市6)、策定する予定なしの自治体は42(都道府県0, 指定都市6, 中核市36)となっている。 *2 マラケシュ条約第3条において、同条約の「受益者」は、@盲人である者、A視覚障害又は知覚若しくは読字に関する障害のある者であって、印刷された著作物をそのような障害のない者と実質的に同程度に読むことができないもの、B身体的な障害により、書籍を持つこと若しくは取り扱うことができず、又は目の焦点を合わせること若しくは目を動かすことができない者のいずれかに該当する者であると定義されている。 *3 文字・活字文化振興法(平成17年法律第91号)は、「文字・活字文化が、人類が長い歴史の中で蓄積してきた知識及び知恵の継承及び向上、豊かな人間性の涵(かん)養並びに健全な民主主義の発達に欠くことのできないもの」であることにかんがみ、すべての国民が生涯にわたり、身体的な条件その他の要因にかかわらず、等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備することを基本理念として謳っている。また、子どもの読書活動の推進に関する法律(平成13年法律第154号)は、「子ども…(略)…の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」と規定している。 *4 教科書については、平成30年の学校教育法等の改正により、特別な配慮を必要とする児童生徒の困難低減等のため、学習者用デジタル教科書の活用が可能となっているほか、音声教材、教科用特定図書等(拡大教科書等)について、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(平成20年法律第81号)に基づき、ボランティア団体等が、教科書発行者から提供を受けた教科書デジタルデータを活用し製作している。 *5 日本の視覚障害児・者について、厚生労働省が行った令和4年度「福祉行政報告例」によると、視覚障害により障害者手帳を所持している児・者は約32.1万人、同じく肢体不自由は約239.6万人(うち、「上肢」「運動機能障害・上肢」は約83.2万人)とされている。また、ディスレクシアと呼ばれる学習障害の一種とされる読字障害者の正確な人口は把握されていないが、文部科学省の令和4年度「通級による指導実施状況調査」によると、学習障害(LD)を理由に、公立小・中・高等学校の通級による指導を受けている児童生徒数は、36,988人である。一方で、独立行政法人日本学生支援機構が毎年行っている高等教育機関への悉皆調査(「令和5年度障害のある学生の修学支援に関する実態調査」)では、学習障害(SLD:限局性学習症)のある学生数は309人に留まっている。 *6 全国公共図書館協議会が令和3年度に全国の公立図書館を対象として行った調査(回収率99.8%『2021年度(令和3年度)公立図書館における読書バリアフリーに関する実態調査報告書』https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/zenkoutou/report/2021/を参照。)によれば、アクセシブルな書籍等は約285万タイトル(延べ数)であり、うち半分以上が「大活字本」(161万タイトル)であり、続いて「電子書籍」(45万タイトル)、「点字資料等」(23万タイトル)が続く。なお、社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会令和4年度実態調査「日本の点字図書館39」によると、全国の点字図書館84館が所蔵するアクセシブルな書籍数は約199万タイトル(延べ数)であり、内訳としては「点字図書」(81万タイトル)、「音声デイジー図書」(58万タイトル)、「カセット図書」(56万タイトル)となっており、この3媒体が大半を占めている。 *7 図書館においては拡大文字資料と総称され、大きな文字サイズの出版物である「大活字本」とボランティア等が手作業で製作する「拡大写本」に大別される。 *8「LL」とはスウェーデン語の「Lattlast(分かりやすく読みやすい)」の略で、「LLブック」とは、読むことに困難のある人のために、生活年齢に合った内容を、分かりやすく読みやすい形で提供すべく書かれた本のことである。 *9「EPUB」とは、電子書籍のファイルフォーマット規格のことである。 *10「DAISY」とは、「Digital Accessible Information System」の略で、「アクセシブルな情報システム」を指す。特徴としては、@目次から読みたい章や節、任意のページに飛ぶことができる、A最新の圧縮技術で一枚のCDに50時間以上も収録が可能である、B音声にテキストや画像を同期させることができる、等がある。なお音声データをインターネットを経由してダウンロードして使用できる機種もある。 *11 オーディオブックとは、書籍等の文章を読み上げ又は口演し、必要に応じて効果音及びBGM等を付与することにより、利用者が耳で聴くことを通じて情報を得られる形式の電子音声コンテンツを指す。文字を目で読んで情報を得られる電子書籍とは異なり、オーディオブックは利用者の視界を占有しないこと及び発音、抑揚等の発声技術を駆使した表現が可能となること等の特徴を有する。 *12 著作権法第37条第3項では、視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものが、視覚障害者等のために録音図書等の製作等を行うことができる旨が規定され、政令で、(1)障害者施設や図書館等の公共施設の設置者、一定の要件を満たすボランティア団体等、(2)文化庁長官が個別に指定する者が定められている。 *13 図書館利用に障害のある者に対して、点字資料、拡大図書、録音資料、手話や字幕入りの映像資料等の整備・提供、対面朗読の実施、郵送・宅配等のサービス、施設や学校へのサービス、手話・筆談等によるコミュニケーションの確保、図書館利用の際の介助など、来館・移動のための支援や、物理的環境への配慮、意思疎通への配慮を行う等、障壁となるものを取り除いて図書館を使えるようにするサービスのこと。 *14 視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある者に対して点字データ、デイジーデータ等を提供するネットワーク。日本点字図書館がシステムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営を行っている。正式名称は「視覚障害者等用情報総合ネットワーク」。 *15 身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)に基づく視聴覚障害者情報提供施設の一種で、点字刊行物の出版に係る事業を主として行う施設。令和4年社会福祉施設等調査によれば、全国にある点字出版施設は10施設。 *16 公益社団法人全国出版協会の発表「2023年の出版市場規模発表」(https://www.ajpea.or.jp/information/20200124/index.html)によれば、紙の出版市場は1兆612億円、電子出版市場は5,351億円。 U 基本的な方針  1.アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供 市場で流通している電子書籍等が少なかった時代には、著作権法第37条第1項に基づき製作された点字図書や、同条第3項に基づき点字図書館など障害者施設、図書館、一定の要件を満たすボランティア団体等が権利者の許諾なく製作できる録音図書、拡大図書等の書籍が、視覚障害者等の読書環境を支える中心となってきた。 今後は、それらに加え、市場で流通する電子書籍等と、著作権法第37条第3項に基づき製作される電子書籍等を車の両輪として、両面から取組を進め、アクセシブルな電子書籍等の普及を図る時代となっている。 合わせて、アクセシブルな電子書籍等及びそれらを利用するためのシステムの標準化による相互接続性の確保を軸にしたアクセシブルな閲覧システムと端末機器等の整備と、それを視覚障害者等が円滑に利用するための技術習得支援が必要である。 また、障害の状況によって端末機器等を使えない場合や、紙や布といった現物の書籍が必要とされる場面・ニーズもあるため、引き続きアクセシブルな書籍の提供を継続するための取組も必要である。更に、書籍利用のためのアクセシビリティのみならず、書籍の入手や利用に係るアクセシビリティの改善・向上にも合わせて取り組む必要がある。 2.アクセシブルな書籍等の量的拡充・質の向上 利用者の視点からは、アクセシブルな書籍等の「量的拡充」及び「質の向上」の両方のニーズがある。著作権者と出版者の団体がそれぞれ声明(*17)を発表して、これらのニーズに積極的に応える意向を表明しており、今後の具体的な活動が期待される。 「量的拡充」に関しては、既存の電子書籍及びオーディオブック販売サイトや民間電子書籍及びオーディオブックサービスで販売・貸出されているアクセシブルな書籍等の積極的な活用を進めるとともに、喫緊の課題として、ユーザが求める形式のデータが揃っているわけではない点に留意しつつ、アクセシブルな書籍等のニーズに対応するため、点字図書館、公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館、国立国会図書館において、各々の果たすべき役割に応じ、アクセシブルな書籍等を充実させることが重要である。 また、図書館が所蔵するアクセシブルな書籍等を全国の視覚障害者等に届けるための仕組みとして、各館が所蔵するアクセシブルな書籍等の共有に向けた図書館間の連携やネットワークの充実に努めることが重要である。 「質の向上」については、アクセシブルな書籍等の製作に係る基準の作成や、製作に従事する者の研修が必要である。 また、「量的拡充」及び「質の向上」のいずれにおいても、これまでに製作された書籍等について、書籍・電子書籍等の形態を問わずアクセシブルなものにし、長期的にデータとして保存するための取組や、製作者が効率的に作業できるよう出版者から製作者に電子データを提供する仕組みを構築することが考えられる。特に、教育や研究分野で、アクセシブルな電子書籍等がニーズに比して不足しており、この分野の取組が喫緊の課題である。 さらに、アクセシブルな電子書籍等の「量的拡充」及び「質の向上」のいずれにおいても、技術による解決を図ることの重要性はますます高まっていることに留意が必要である。生成AIや、AIを用いたOCR(光学的文字認識)、電子書籍のデータ形式をアクセシブルなEPUBリフローとするほか、合成音声読み上げ等といった、近年急速に進化している技術をアクセシブルな電子書籍等の製作に用い、効率化を図ることは、それらの「量的拡充」と「質の向上」をもたらし、アクセシブルな書籍等の製作に従事する人材の不足という課題の解決に繋がる可能性がある。 なお、書籍等のコンテンツや用途によって、「正確性」が求められる場合、「速報性」が求められる場合など様々であり、双方のニーズを踏まえつつ、バランスを取りながら進めていくことが必要である。 3.視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮 視覚障害者等の障害の種類や程度は多様であり、アクセシブルといえる書籍等の提供媒体及び利用方法は異なる。このため、読書環境の整備を進めるに当たっては、個々の障害に対応したニーズを的確に把握し、障害の特性に応じた適切な形態の書籍等を用意することが必要である。 なお、視覚障害者等が、著作権法第37条第1項又は第3項本文の規定により製作されるアクセシブルな書籍(以下「特定書籍」という。)及び同条第2項又は第3項本文の規定により製作されるアクセシブルな電子書籍等(*18) (以下「特定電子書籍等」という。)の利用を希望する場合、これらの特定書籍・特定電子書籍等を視覚障害者等の利用に供する機関においては、障害者手帳や医学的診断基準に基づく診断書の有無に限ることなく、他の客観的な根拠資料を用いる等(*19)、柔軟な対応により障害等の確認を行うことが適切である。 *17 令和6年4月9日の日本文芸家協会・日本推理作家協会・日本ペンクラブによる「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」、同年6月27日の日本書籍出版協会・日本雑誌協会・デジタル出版者連盟・日本出版者協議会・版元ドットコムによる「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」のこと。 *18 著作権法第37条では、視覚障害者等のために書籍の複製等を著作権者等の許諾なく行うことを認めている。同条第1項において、公表された著作物を点字により複製することが、同条第2項において、点字データを記録媒体に保存することや、インターネット等で送信することが認められている。また、同条第3項において、書籍の音訳等、視覚障害者等が利用するために必要な方式により複製すること(紙媒体と電子媒体の両方)や、作成されたものをインターネットやメール等で送信することが認められている。 *19 図書館関係団体が定めている「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」の別表2に、視覚障害者等の利用登録を行うための、「利用登録確認リスト」がある。 V 施策の方向性 1.視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係) 【基本的考え方】 公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館(以下「公立図書館等」という。)並びに国立国会図書館について、点字図書館とも連携して、アクセシブルな書籍等の充実、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制整備を図る。 また、点字図書館については、アクセシブルな書籍等の充実、公立図書館等に対する利用に関する情報提供、視覚障害者による十分かつ円滑な利用の推進を図る。 (1)アクセシブルな書籍等の充実 ・公立図書館等において、地域や機関等の実情を踏まえ、点字図書館や他の図書館等と連携しつつ、アクセシブルな書籍等の量的拡充・質の向上に資する方法の共有及びその積極的活用等を通じて、アクセシブルな書籍等を充実させる取組を促進する。 ・国立国会図書館において、学術文献の録音資料やプレーンテキストやアクセシブルなEPUBの製作を促進するとともに、公立図書館等で製作される特定電子書籍等を収集し、アクセシブルな書籍等の充実を図る。 ・点字図書館及び点字出版施設(以下「点字図書館等」という。)が、今まで培ってきたノウハウを生かし、引き続き障害の種類及び程度に応じたアクセシブルな書籍等が充実するよう、点字図書館等による製作の支援を行う。 ・国立国会図書館と日本点字図書館が協力して、図書館等における視覚障害者等用テキストデータの製作及び提供に係る取組を進め、アクセシブルな電子書籍等の充実を図る。 (2)円滑な利用のための支援の充実 ・公立図書館や学校図書館において、各館の特性や利用者のニーズ等に応じ、対面朗読や郵送貸出等の他、新たな技術を用いた障害者サービスの充実に努めるとともに、対面朗読室等の施設や電子書籍利用のための高速データ通信機器等の整備、拡大読書機器等の読書支援機器の整備、点字による表示、ピクトグラム等を使ったわかりやすい表示、インターネットを活用した広報・情報提供体制の充実を図る取組を促進する。 ・学校における学校図書館を活用した支援を充実するため、設置者である各教育委員会等に対し、司書教諭・学校司書の配置の重要性について周知するとともに、司書教諭をはじめ学級担任や通級の担当者、特別支援教育コーディネータ等の教職員間の連携の重要性について、効果的な実践事例を収集し、周知するなどして支援体制の整備を図る。 ・インクルーシブ教育システムの理念にのっとって、視覚障害等のある児童生徒及び学生等が在籍する初等中等教育機関及び高等教育機関において読書環境を保障することが重要であり、以下の取組を推進する。 @点字図書館及び公立図書館と学校図書館の連携を図り、視覚障害等のある児童生徒を支援するための取組を進める。またその際、学校教育段階での教科書以外の参考書や副読本等多様な資料の充実を図ることや、視覚障害等のある教職員への支援についても留意する必要がある。 A各教育委員会を通して、特別支援学校、特別支援学級設置校、及び視覚障害等のある児童生徒が在籍する学校に対し、アクセシブルな書籍等の整備の充実を促すとともに、視覚障害等のある児童生徒が社会教育の場である図書館の利用について学ぶ機会を設けることの重要性及び具体的な利用方法について周知を図る。 B国立情報学研究所において整備した、全国の大学及び高等専門学校の附属図書館が保有するアクセシブルな書籍等の所在情報を共有するためのリポジトリについて、国立国会図書館障害者用資料検索(みなサーチ)との連携等を通じて視覚障害者等による円滑な利用を促進する。同リポジトリで積極的に学術論文等を含むアクセシブルな書籍等が公開されるように、同リポジトリに登録した大学等の社会的認知を高めるなどの支援について検討する。 C全国の大学等の障害学生支援を担う施設は、大学図書館に類する役割や機能を有する施設であれば、著作権法施行令(昭和45年政令第335号)において視覚障害者等のための複製が認められる者として位置付けられていることを踏まえ、大学等の図書館と学内の障害学生支援担当部局等の関係部局との情報共有を促進し、相互の連携を強化する。特に学内で製作された特定電子書籍等を全国の視覚障害者等が利用できるように体制を整備する。 ・点字図書館において、公立図書館や地域のICTサポートセンター(*20)等との連携を図り、視覚障害者等に対し、様々なアクセシブルな書籍等や端末機器を活用して読書の機会を提供する等とともに、点字・録音図書等の郵送サービスを含む地域の視覚障害者等に対するアクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援を引き続き実施していく。 ・点字図書館が担ってきた音訳図書の製作やアクセシブルな書籍等の利用に関する情報提供などの機能は視覚障害者以外の視覚による表現の認識が困難な者の読書環境の整備の推進に役立つものであることから、地域における公立図書館等との連携を推進するとともに、地方公共団体や関係団体等と協議しながら、点字図書館においても、アクセシブルな書籍等を必要とする方が利用できるよう受入れ環境の整備及びアクセシブルな書籍等の充実に努める。 (3)その他 ・公立図書館等においては、地域の学校教育や職業生活、地域生活等を支えるため、視覚障害者等の読書活動におけるアクセシビリティの向上に向けて、利用者にとって分かりやすいように、各館に障害者サービスや支援技術に関し専門性を有する職員や、書籍のみではなく読書活動への社会的障壁やアクセシビリティ保障に関する担当者の配置を明示することなどを通じて、より積極的にかかわることが期待される。 ・公立図書館等において、視覚障害者等の図書館の利用や、視覚障害者等を含めて広く社会に読書バリアフリーの普及・啓発を進めるために、アクセシブルな書籍等について紹介するコーナー(*21)の設置を促進する。 ・点字図書館等をはじめとする点字図書の製作者において、点字図書を安定的かつ効率的に製作することが可能となるよう、製作現場に必要な運営支援を行う。 *20 障害者等のICT(情報通信技術)の利用機会の拡大や活用能力の向上を目的として、@ICT機器の紹介、貸出・利用に係る相談、Aサピエ図書館を含むインターネットサービスの利用支援等を行うパソコンボランティアの養成・派遣等の事業を行う拠点(都道府県・指定都市・中核市に対する厚生労働省補助事業)。 *21 例えば、「りんごの棚」という名称で、アクセシブルな書籍等の紹介コーナーを設置する図書館が増えてきている。 2.インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10条関係) 【基本的考え方】 インターネットにより視覚障害者等に提供する全国的なネットワークの運営に対する支援を行い、アクセシブルな書籍等の十分かつ円滑な利用を促進する。 また、国立国会図書館、同ネットワークを運営する者、公立図書館等、点字図書館及び特定電子書籍等の製作を行う者の間の連携強化を図り、インターネットを利用したサービスの提供や利用の促進を図る。 ・現在、国立国会図書館においては、自ら製作した「学術文献録音図書」の音声デイジーデータや、公立図書館等が製作し、国立国会図書館が収集した視覚障害者等用データを、個人、公立図書館等及び点字図書館に送信するサービス(視覚障害者等用データ送信サービス(*22))を実施している。一方、サピエ図書館においては、全国の点字図書館等で製作された点字やデイジーデータを個人や会員施設等がダウンロードすることができる体制を整えている。また、両者のシステム間の連携も図られており、視覚障害者等が全国にあるアクセシブルな書籍等を統合的に検索できるシステム(みなサーチ)も国立国会図書館により整備されている。これらのシステムのより一層の活用を図るため、視覚障害者だけでなく読字に困難がある発達障害者(ディスレクシア等)や肢体不自由な者など視覚による表現の認識が困難な者も利用できることも含め、関係機関・団体間の連携等を通してこれらシステムの周知を図る。 ・地域における点字図書館、ICTサポートセンター、特別支援学校の学校図書館を含む公立図書館等との連携を図り、国立国会図書館やサピエ図書館のサービスについての周知や連携に必要な情報提供を研修会の開催やリーフレットの作成等を通じて積極的に行い、多くの視覚障害者等が、みなサーチを窓口とする国立国会図書館の視覚障害者等用データ送信サービスや、サピエ図書館を利用できるよう会員加入の促進等の取組を進める。 ・このような取組を進めていく中で、視覚障害者等の障害の特性に応じた利用しやすいサービスが提供できるよう、みなサーチとサピエ図書館の特性を考慮して、関係団体の協力も得ながら、会員加入手続における確認手法の多様化・効率化、障害等の状況を確認する際の着眼点の整理、システム改善等の取組を進める。 ・サピエ図書館の運営は、国の補助金と、加入図書館や団体等からの会費で実施しているところであるが、引き続き会員加入の促進を図りながら、将来的な会員の拡大等の状況や国の役割も踏まえ、安定的な運営が図られるよう取組を推進していく。 *22 視覚障害者等用データ送信サービスの利用の窓口となるのが、みなサーチである。 3.特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(第11条関係) 【基本的考え方】 特定書籍・特定電子書籍等の製作支援のため、製作に係る基準の作成や、製作者の技術向上のための研修等、質の向上を図るための取組に対する支援を行う。 (1)製作基準の作成等の質の向上のための取組への支援 ・アクセシブルな書籍やサピエ図書館におけるアクセシブルな電子書籍等の充実及び質の向上を図るため、サピエ図書館を運営する者は、引き続き特定書籍や特定電子書籍等の製作を行う者への製作手順等の共有を図るとともに、製作技術の向上を図る研修等を充実する。 ・地域における点字図書館と公立図書館等との連携を引き続き支援し、特定書籍や特定電子書籍等の製作のノウハウや製作された書籍等に関する情報の共有による製作の効率化を図る。 ・視覚障害者等のニーズの多様化等に対応するため、出版者に対し、特定書籍及び特定電子書籍等の製作に係る基準の共有や製作技術の向上のための研修等の質の向上を図るための取組に資する情報提供や助言等を行う。 ・障害者等の利便の増進に資するICT機器・サービスに関する研究開発(特定電子書籍等の質の向上に資する製作支援技術を含む。)を行う者への支援を引き続き実施する。 (2)出版者からの製作者に対する電磁的記録等の提供の促進のための環境整備への支援  ・視覚障害者等の様々なアクセシブルな書籍等のニーズに適切に対応できる特定書籍・特定電子書籍等の製作環境を整備するため、出版者から特定書籍・特定電子書籍等の製作者に対する円滑な電磁的記録の提供の仕組みや具体的方法について、国が主導し、実証調査等の実施を通じて検討する。その際、電磁的記録については、出版者における流出の懸念や、作成にかかる費用負担の在り方、管理する仕組み等の課題、特定書籍・特定電子書籍等の製作者が望むデータ形式を相互に変更するための仕組み等についての検討も必要である点に留意する。 ・出版者からの特定書籍又は特定電子書籍等の製作を行う者に対する電磁的記録の提供を促進するための情報提供や助言等を行う。その際、視覚障害等のある児童生徒及び学生等の教育や研究に必要とされる補助教材や参考書等の書籍等や、視覚障害等のある教育関係者や図書館関係者等が職務活動の遂行に必要とする書籍等の電磁的記録の提供が重要であることにも留意する。 4.アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12条関係) 【基本的考え方】 アクセシブルな電子書籍等の販売等が促進されるよう、技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進、著作権者と出版者との契約に関する情報提供その他の必要な施策の推進を図る。 また、視覚障害者等への合理的配慮の提供の観点から、出版者からの視覚障害者等に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に関する関係者間における検討に対する支援その他の必要な施策の推進を図る。  (1)技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進  ・障害の種別や程度だけでなく、書籍の特性等にも留意して、視覚障害者等による円滑な利用と著作権管理システムによるコンテンツ保護の両立を図り、アクセシブルな電子書籍等の販売が促進されるようにするため、海外の先行事例等を参考としつつ、新たな技術(*23)の動向と視覚障害者等の多様なニーズを分析し、視覚障害者等の読書環境の整備に向けた取組を進める。 ・国内電子書籍販売サイトについて、書籍のアクセシビリティに関する情報を明示する等、検索時や購入時における書籍情報の案内等がアクセシブルなものとなるよう、環境整備を進める。 ・国は、出版関係者との検討の場を設け、アクセシブルな電子書籍等の出版に関する課題や具体的な方法について検討するとともに、アクセシブルな電子書籍等の製作及び販売等の促進を図る。 (2)著作権者と出版者との契約に関する情報提供 ・出版者は、著作権者との出版に関する契約において電磁的記録の提供が含まれていない場合、著作権者から改めて許諾を受ける必要がある。このため、著作権者と出版者との契約の在り方等、アクセシブルな電子書籍等の販売等に関する著作権者と出版者との契約に資する情報提供や助言等を行う。 (3)出版者からの書籍購入者に対する電磁的記録等の提供の促進のための環境整備に関する検討への支援 ・出版者による障害のある書籍購入者に対する電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に資する情報提供や助言等を実施する。その際、視覚障害等のある児童生徒及び学生等の教育や研究に必要とされる書籍等や、視覚障害等のある教育関係者や図書館関係者等が職務活動の遂行に必要とする書籍等の電磁的記録の提供が重要であることにも留意する。 ・電磁的記録の提供については、流出の懸念の払しょく、作成に係る費用負担の在り方、管理する仕組み等の課題がある。このため、出版関係者や学識経験者等による検討の場を設け、電磁的記録の提供に関する課題や具体的な方法について検討する。 (4)その他 ・アクセシブルな電子書籍等を提供する民間電子書籍サービスについて、関係団体の協力を得つつ整理した図書館における適切な基準(「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン」)の普及を促進し、図書館への導入を支援するとともに、関係者からの意見等を踏まえ、基準の改善に努める。 *23 WCAG2.2、EPUB3.3、EPUBアクセシビリティ1.1、ISO/IEC23078(情報技術−電子出版物のデジタル著作権管理仕様)等を含む 5.外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(第13条関係) 【基本的考え方】 マラケシュ条約の枠組みに基づき、視覚障害者等がアクセシブルな電子書籍等であってインターネットにより送信することができるものを外国から十分かつ円滑に入手することができるよう、相談体制の整備その他のその入手のための環境の整備を図る。 ・アクセシブルな電子書籍等の受入れ・提供のための国内外の連絡・相談窓口として中心的な役割を果たす機関(国立国会図書館、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会)において、外国で製作されたアクセシブルな電子書籍等の入手及び国内で製作されたアクセシブルな電子書籍等の外国への提供を実施しているが、こういったサービスの認知度が低いことが課題となっている。特に外国で製作された学術文献のアクセシブルな電子書籍等のニーズが高い大学関係機関に対して、普及啓発を実施するとともに、視覚障害者等が外国で製作された学術文献のアクセシブルな電子書籍等の所在の検索を容易にしたり、日本で製作された学術文献のアクセシブルな電子書籍等を外国に提供したりできる環境の整備を引き続き進めていく。 6.端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援(第14条・第15条関係) 【基本的考え方】 アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等、これに関する情報及びこれを利用するのに必要な情報通信技術について視覚障害者等が入手及び習得するため、必要な支援等を行う。 ・視覚障害者等によるアクセシブルな書籍等の利用を促進するため、端末機器等の利用に当たり、支援の必要な者が必要な支援を受けられるよう、以下の取組を推進する。 @点字図書館と公立図書館等が地域のICTサポートセンター等と連携し、視覚障害者等に対して、様々な読書媒体の紹介やそれらを利用するための端末機器等の情報入手に関する支援を行う。なお、読書困難者の読書を支援する拡大読書機、ルーペ等の拡大補助具、点字ディスプレイ、デイジープレイヤー等の端末機器等について、個々の障害の状態に応じた活用に留意する。 A点字図書館と公立図書館等が連携し、サピエ図書館及び国立国会図書館の視覚障害者等用データ送信サービス等にかかる、パソコン、タブレット、スマートフォン等を用いた利用方法に関する相談及び習得支援、端末機器の貸出等による支援を行う。 B全国の視覚障害者等がアクセシブルな電子書籍等を利用できるようにするため、障害の特性に即した点字ディスプレイ、デイジープレイヤー等の端末機器が必要な者に行き届くよう、国と地方公共団体とが協力して読書環境の整備を推進する。 ・上記の取組を推進するため、ICTサポートセンターの普及の支援を行うとともに、端末機器等の習得支援等を行う公立図書館や学校図書館の職員、障害福祉課等の自治体職員等に対する研修を実施し、視覚障害者等が身近な地域において端末機器等の利用に係る講習会等の支援を受けることが可能となるよう、施策の推進を図る。 ・小・中・高等学校、特別支援学校の学習指導要領において、「情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」と規定しており、また、現在、学校におけるICT環境整備が進められていることも踏まえ、すべての児童生徒を含む読書困難者が情報端末を利用して容易に電子書籍等を利用できるよう、各教育委員会の指導主事等を集めた全国会議等の場において、その趣旨を説明する等、その周知を図る。 7.アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(第16条関係) 【基本的考え方】 アクセシブルな電子書籍等及びこれを利用するためのシステム及び端末機器等について、視覚障害者等の利便性の一層の向上を図るため、これらに係る先端的な技術等に関する研究開発及びその成果の普及に必要な施策の推進を図る。 ・アクセシブルな電子書籍等及びこれを利用するためのシステム及び端末機器も含め、広く障害者等の利便の増進に資する、ユニバーサルデザインの考え方に基づいたICT機器・サービスに関する研究開発やサービスの提供を行う者に対する資金面での支援及びその開発成果の普及を引き続き実施する。なお、研究開発にあたっては、必要な国際標準に準拠して持続性を担保するとともに、開発プロセスへの視覚障害者等の参加を確保し、障害者がその障害の種類や程度に応じて快適にアクセシブルな電子書籍等を利用できるよう留意する。 ・アクセシブルな電子書籍等の利用にあたっては、視覚障害者等が使いやすい機器や閲覧システム(アプリ等)の開発への支援も重要である。また、スマートフォン等を利用してアクセシブルな電子書籍等を閲覧するソフトウェアや、著作権法など関連する法令に留意しつつ、生成AIを活用したアクセシブルな電子書籍等への変換機能などの開発への支援も期待される。 8.製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17条関係) 【基本的考え方】 特定書籍・特定電子書籍等の製作に携わる者や、アクセシブルな書籍等の利用のための支援を行う者について、これらの養成、資質の向上及び確保に係る支援を行い、円滑な利用を促進する。 また、公立図書館等及び国立国会図書館において、アクセシブルな書籍等の一層の円滑な利用のための支援の充実のため、司書等を対象とした研修及び養成においては、視覚障害者等に対する図書館での障害者サービスを持続的に発展させる視点を持つように、司書等の資質の向上を図る。 (1)司書、司書教諭・学校司書、職員等の資質向上  ・司書及び司書補(以下「司書等」という。)、司書教諭及び学校司書(以下「司書教諭等」という。)並びに職員等を対象に、障害に関する理解や、障害者サービスに関する内容及び支援方法を習得するための研修や、読書支援機器の使用方法に習熟するための研修等を実施し、資質の向上を図る。また、公立図書館においては、障害当事者でピアサポートができる司書等及び職員等の育成や環境の整備を進める。 ・公立図書館等において求められる障害者サービスが高度・多様化しており、ICT技術等の進展などもあることから、司書等や司書教諭等、職員等を対象とした各研修についても、情報アクセシビリティやデジタル化に関する国際動向や事例に触れるなど、社会の変化に対応していく必要がある。 ・大学の司書等及び司書教諭等の養成は、専門的職員としての入口に位置付けられる重要な段階である。このため、養成課程において、学生段階から障害者サービスの知識等について学習する機会を充実する。 (2)点訳者・音訳者、アクセシブルな電子データ製作者等の人材の確保と養成 ・点字図書館等や公立図書館等及びそこで活動するボランティア等における点訳、音訳、アクセシブルな電子データ製作等に携わる人材について、製作基準の共有やノウハウ等の習得に係る研修の取組を支援し、質の向上を推進する。 ・ボランティア等の高齢化や減少などの影響で、点訳や音訳、アクセシブルな電子データ製作に携わる人材が不足しており、この分野における人材の確保が重要な課題となっている。このため、点字図書館等や、公立図書館等と地方公共団体が連携して、人材の募集や養成、活動支援等に計画的に取り組むことができるよう支援する。なお、製作人材の確保に関しては、ボランティアのみに頼ることのない、製作環境の整備も含めて、様々な方策を関係者間で検討する。 ・新たな端末機器やソフトウェア、合成音声の活用等、技術の進歩に応じてアクセシブルな書籍等の製作を行う人材や体制を確保していくことも必要である。 W 基本的施策に関する指標 本基本計画(第二期)では、関係する施策の進捗状況を把握するため、関係省庁等や関係団体の意見を参考に、以下の通り、「基本的施策に関する指標」を設けることとした。 これらの進捗状況を確認することで、着実な施策の推進を目指すものである。 第8条関係  ・地方公共団体(都道府県・指定都市・中核市)における読書バリアフリー計画の策定状況 第9条関係  ・公立図書館等におけるアクセシブルな書籍等の冊数 ・バリアフリー関係設備の整備状況 ・著作権法第37条第3項による視覚障害者等用資料製作を行う公立図書館等の数(館種別の視覚障害者等用データ送信サービスのデータ提供館及びサピエ図書館登録館数) ・資料形態ごとの視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の提供データ数 第10条関係 ・公立図書館等の視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の館種別登録館数 ・視覚障害者等個人の視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の登録者数 第11条関係 ・出版者から公立図書館及び学校図書館、点字図書館に提供されたタイトル数 第12条関係 ・市場に流通するアクセシブルな電子書籍等の新規発行数もしくは登録数 第13条関係 ・マラケシュ条約に基づく視覚障害者等用データの国際交換サービスの輸出入データ数 第14条・第16条関係 ・国によるICT技術開発支援の採択件数 第15条関係 ICTサポートセンターの都道府県別設置状況 第17条関係 ・国及び都道府県等における図書館職員向けの障害者サービスにかかる研修会の実施状況 ・点訳・音訳奉仕員養成研修の受講者数 X おわりに 本基本計画(第二期)では、第一期の基本計画に記載した視覚障害者等の読書環境の整備にかかる様々な取組を中心に、第一期基本計画期間中の進捗状況を踏まえ、内容の更新とともに、新たに補足・追記を行ったものである。今後、本基本計画(第二期)において新たに設定した指標等による進捗状況の確認を行ないながら、取組を進めていく必要がある。 本基本計画に基づき取組を着実に推進していくためには、地方公共団体や関係機関、当事者等多くの関係者の理解が必要であり、丁寧な周知を行うとともに、国において、引き続き、関係者間による協議会を設置し、課題の解決に向けた取組を実施していく。また、関連施策の実施に当たって、国は必要な財源の確保に努める。 また、地方公共団体においても、本基本計画による取組がより具体的に進展するよう、取り組むべき事項や課題ごとに、組織の枠を超えた取組や関係者間で連携した取組が行えるような体制の構築を図る必要がある。特に都道府県は、域内全体の視覚障害者等の読書環境の整備が図られるよう、自ら行うべき図書館等の施策の充実を図るとともに、市町村に対して必要な指導・助言等を行うものとする。 国は、本基本計画を踏まえ、地方公共団体における計画の策定が円滑に行われるよう、好事例の周知をはじめとした支援を行っていく。 本基本計画に基づく施策の推進を図る際には、その対象者である視覚障害者等には、盲、弱視、盲ろう、発達障害(ディスレクシア等)、肢体不自由等、様々な特性があることを踏まえて取り組むことが求められる。加えて、聴覚障害者、知的障害者、高齢者、外国人等、読書や図書館の利用(*24)に様々な障壁がある人がいることも認識して取り組むことが必要である。とりわけ、アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る研究開発の推進に当たっては、長期的な視点から、全ての者に配慮したユニバーサルデザインの実現を目指すことが重要である。 この基本計画に基づく施策の推進により、全ての国民が文字・活字文化の恵沢を享受できる社会が実現し、真の共生社会の実現に寄与することが期待される。 *24 図書館関係団体が定めている「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」では「視覚障害者等」の範囲を次のように定めている。(別表1)視覚障害/聴覚障害/肢体障害/精神障害/知的障害/内部障害/発達障害/学習障害/いわゆる「寝たきり」の状態/一過性の障害/入院患者/その他図書館が認めた障害 (以上)