障害者差別解消法衛生事業者向けガイドライン〜衛生分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜の改正案に関する意見募集の結果について 令和6年3月29日 厚生労働省 健康・生活衛生局生活衛生課 障害者差別解消法衛生事業者向けガイドライン〜衛生分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針〜の改正案について、令和6年2月13日(火)から同年3月13日(水)まで御意見を募集したところ、計170件の御意見をいただきました。 お寄せいただいた御意見の要旨とそれに対する考え方について、内容により分類し、以下のとおり取りまとめましたので、公表いたします。 皆様の御協力に深く御礼申し上げるとともに、今後とも厚生労働行政の推進に御協力いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。 No.1 (案に対する御意見の要旨) P20 について追記の意見について  機器(データを点字に変換して表示する、音声を文字変換する、表示された絵 などを選択することができる機器など)を設置すること ・部屋でフロントのスタッフに緊急に連絡したいとき、メールで連絡ができるようにすること ・緊急時の呼び出し方法として、振動呼び出し機を用意し、必要に応じて貸し出せるようにし、又はテレビなどのモニターにより、緊急事態である旨を表示できるようにすること ※・タッチパネル操作の機器以外にも ●追記 (外付けテンキーや) 代替手段を用意しておくこと (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見ありがとうございます。今後の参考とさせていただきます。 No.2 (案に対する御意見の要旨) ※【】内は削除の意見 (6)障害特性に応じた対応について P31 重症心身障害・その他医療的ケアが必要な者 〔主な特性〕  ・自分で体を動かすことが【できない】困難な重度の肢体不自由と、年齢に相応した知的発達が【見】みられない重度の知的障害が重複している場合がある  ・【殆】ほとんど寝たままで自力では起き上がれない状態が多【い】く、特殊型車いすを使用  ・移動、食事、着替え、洗面、トイレ、入浴などが自力ではできないため、日常の 様々な場面で介助者による援助が必要(紙オムツをしていることが多い)  ・常に医学的管理下でなければ、呼吸することも栄養を摂ることも困難な人もいる  ・鼻に留置した管や胃ろう等から医療用ミルクやミキサー食を注入する人がいる  ・通常の食事が摂れない場合には、食事の形態を変える等の特別な配慮が必要  ・重度の肢体不自由や重度の知的障害はないが、人工呼吸器を装着するなど医療的ケアが必要な人もいる  ・言葉でのコミュニケーションが困難な人が多い  〔主な対応〕  ・人工呼吸器などを装着して【専用】大型の車椅子で移動する人もいるため、電車や【バス】エレベーターの乗降時等において、周囲の人が【手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要】本人または介助者に声をかけ、何を手伝えばよいか聞くなどの配慮が必要  ・体温調整がうまくできないことも多いので、急な温度変化を避け、【る配慮が必要】本人または介助者と対話し対応可能な配慮を行う  ・医療的ケアの内容によっては、プライバシーへの配慮が必要  ・医療機器や器具の衛生面での配慮が必要 P41 ■障害特性に応じた具体的対応例 ・飲食店の配慮(重症心身障害・医療的ケアが必要な者@) 外食の際に、食形態を整えるために持参した電源を必要とする器具を使用したいと伝えたところ、電源を快く使わせていただき、家族と同じメニューを楽しむことができました。 ・旅館・ホテルでの食事への配慮(重症心身障害・医療的ケアが必要な者A)  家族や同行者と同じ食事をしたいと事前に申し出たところ、食形態に合わせた料理を提供してくれました。本人の満足感が高まり旅行を一層楽しむことができました。 ・旅館・ホテルでの入浴への配慮(重症心身障害・医療的ケアが必要な者B) 旅館での入浴の際、障害者と付き添いの家族が一緒に入浴できるよう入浴場所を一時専用浴場にされて、家族と一緒に入浴することができました。 ・オムツ交換への配慮(重症心身障害・医療的ケアが必要な者C)  トイレに大人用の折り畳み式ベッドがなかったため、おむつ交換のための場所をたずねたところ、別室を案内していただくことができました。家族と一緒に外出しやすくなりました。 ・駐車場への配慮(重症心身障害・医療的ケアが必要な者D)  医療機器や物品を持ち歩くため、自家用車で行くことを事前に伝えていたところ、出入口近くの車椅子用駐車スペースを確保してくださいました。天気があまりよくない日だったので、本人の体調への配慮もありとても助かりました。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御指摘を踏まえ、一部修正いたしました。 No.3 (案に対する御意見の要旨) 私はほぼ全盲の視覚障害者ですが、「障害者差別解消法衛生事業者向けガイドライン案」に関する意見」として私見を述べさせていただきます。  パブリックコメント募集のためにご提示された内容につきましては、各事業者や障害者に周知徹底されれば障害者の外出機会は増え日本の障害者の生活の質は大きく改善されるものと期待しております。  かなり細かい部分に配慮してまとめられており貴重な対応指針になっていると思います。  ご提示いただいている資料の中で、「先例にとらわれない」、「事業者と障害者がお互いに建設的な対話を行い良い方法をみつけていく」というような内容がありますが、改正法の周知徹底の際、この点をしっかりと徹底いただけますよう心からお願いいたしたいと思います。  私は、契約した郵便局で簡易保険に関する還付金の手続きをお願いした時に、白杖を突いて訪れた私に対し、字が書けないからか「先例がない」という理由で冷たい言葉で断られた経験があります。さらに驚いたことにその足で以前親切な対応を受けたことのある〒局に行き当該手続きをお願いしたらいとも簡単に手続きを終わらせていただきいつ頃お金が振り込まれるのかという説明も含め優しい対応をしてくれました。  つまり、最初の郵便局員は合理的配慮について理解がなかったということになります。  法律の趣旨を民間の事業者に理解していただくために啓発活動にお力をお貸しいただくとともにどのようなことが「合理的配慮」にあたるのかの事例集のようなものを作成していただき事業者や障害者が容易に確認できるようにしていただけますと嬉しいです。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見として承ります。なお、事例集については、内閣府において「合理的配慮の提供等事例集」を作成、公表しております。 No.4 (案に対する御意見の要旨) 意見の対象となる箇所:本人の意思決定・基本的な対応・合理的配慮 意見:下記の記述と、記述に関連する差別にあたる事例を加える。 (意見の理由) 第五次障害者基本計画に「障害福祉サービスの提供に当たっては、利用者の意向を踏まえ、本人の意思に反した異性介助が行われることがないよう取組を進める。」が新設された。衛生分野の現場にもかかわることなので、この記述を本対応指針本文にも加える。併せて、関連する事例が必要である。 記述案: 「障害福祉サービスの提供に当たっては、利用者の意向を踏まえ、本人の意思に反した異性介助が行われることがないよう取組を進める。」 事例案: (事例)入院先で日常的に異性介助が行われている。女性の入浴や排泄や夜勤時の介助は女性の従事者にして欲しいと希望を出しても、対応されなかった。男性の介助を受けることを了承しなければ介助をしないと言われた。 (事例)ガイドヘルパー予約の際に「買い物のガイドだから男性のガイドヘルパーでもいいですか?」と対応されがち。女性として同性のガイドヘルパーを希望する。“排泄や入浴などの介助ではないから男性でもいいでしょう”という見方から転換して、合理的配慮として認識してほしい。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 第二(2)@「合理的配慮の基本的な考え方」において、障害者本人の意思を尊重しつつ、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことについて示されています。 また、一般に、衛生事業者は、障害福祉サービスの提供主体ではないと考えられます。頂いた御意見については、今後の参考とさせていただきます。 No.5 (案に対する御意見の要旨) 意見の対象となる箇所:接遇・相談および研修・啓発 意見:下記の記述と事例を加える。 (意見の理由) 改定障害者差別解消法基本方針には「各種啓発活動や研修等の実施に当たっては、障害のある女性は、障害があることに加えて女性であることにより合理的配慮の提供を申し出る場面等において機会が均等に得られなかったり、不当な差別的取扱いを受けやすかったりする場合があるといった意見があること(中略)についても理解を促す必要があることに留意する。」と定められた。新しい対応指針には、この一文に対応したさらに具体的な記述や事例が必要である。しかし本指針案には、該当する記述や例がみられない。障害のある人を性のない存在のように扱う障害者観は根深くあり、衛生分野も深い関わりがある。障害のある女性に関してどのようなことが差別にあたるか、どのようなことが望ましい取り組みで合理的配慮を提供することになるか、本指針案では示せないので、加筆すべきである。 記述案: 「障害のある女性をはじめ障害のある人を性のない者のように処遇する傾向があることをふまえて、従事者の認識や態度を改める研修機会を設ける。」 事例案: (事例)相談窓口に、障害のある女性ゆえに受けた被害や要望について詳しく話さなければならない場面があって、担当者は男性ばかりだったので話しづらかった。 (事例)相談にたずさわる担当者の研修に、毎回、「障害のある女性と複合差別」を設けて、それぞれ障害の異なる複数の女性を講師として招き、全員で意見交換を行っている。 (事例)「その足でどうやって産むの?」勇気を出して受診した不妊治療の初回、ひとりでは診察台にあがれない私を見て、女性の医師からそう言われた。 (事例)知的障害のある女性が受診し、乳房痛など、身体状況を訴えたにもかかわらず、医療機関で妊娠を発見することができていなかった。女性は助けを得られないまま出産に到った。 (事例)福祉施設の利用者が妊娠していたにもかかわらず、施設の従事者がそれにまったく気づかなかった。障害のある女性が嬰児遺棄の罪に問われる事態となってしまった。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 障害のある女性については、第二(2)@「合理的配慮の基本的な考え方」において「合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する必要があります」と記載している。 事業者における研修・啓発については、上記も踏まえたものとすることが重要と考えています。 No.6 (案に対する御意見の要旨) ・旅館で畳である場合に、どのように補助犬を受け入れればいいか分かるものを紹介してほしい ・P54で「空室があるにもかかわらず」と記載があるが、実際には人手不足で清掃ができておらず、泊まることのできない空室である場合等が想定されるので、理由がない場合に限るなどすべきではないか (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見を踏まえ、修正しました。 No.7 (案に対する御意見の要旨) ・旅館業の別冊で特定の障害に限った表現が散見されますが、特定の障害に限られないものは限定しないように書き換えるべきではないでしょうか。 ・P52で「雑誌や電話帳を重ねたり、外に出てレンガやブロックを探したりして、対応すること」との記載があるが、どのような状況か分かりづらいので、追記をするべきではないでしょうか。 ・P54で「知的・行動障害の特性として床を強く踏み鳴らしてしまう行動もある」とありますが、知的・行動障害の人は必ずこうした行動をするかのような印象を与えうるので、必要な補足をするべきではないでしょうか。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見を踏まえ、修正しました。 No.8 (案に対する御意見の要旨) 肢体不自由障害の障害者の中には上肢が不自由な方もいます。下肢に障害がある場合の記載に偏っているように思うので、上肢に障害がある場合の説明も加えてほしいです。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見を踏まえ、修正しました。 No.9 (案に対する御意見の要旨) P54に知的・行動障害と記載がありますが、知的・発達障害の方が一般的な言い方ではないでしょうか。また、子どもに関する記載がありますが、大人にも当てはまるものは、子どもに限定しない書き方をした方がよいのではないでしょうか。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見を踏まえ、修正しました。 No.10 (案に対する御意見の要旨) P59の「身体障害者補助犬とは」について、補助犬の受け入れ義務がある民間企業の従業員数が書いてありますが4月から変わるはずです。改正後の人数を書いた方がよいと思います。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見を踏まえ、修正しました。 No.11 (案に対する御意見の要旨) ガイドライン案に対する意見としましては、精神障害者にも配慮したサービスの提供も望ましいと考えます。障害者に対するサービスや接客の質を下げるのも不当な差別だと考えますので案には賛成です。 コミュニケーションが障害によって極めて困難である場合も多いので、あらゆる事業者や行政機関にも障害者への配慮がなお一層求められると考えます。 さらなる障害者への合理的な配慮と差別の解消があった方がいいと思います。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見ありがとうございます。今後の参考とさせていただきます。 No.12 (案に対する御意見の要旨) コンサートや演劇等で、コンサート手話通訳をつけてほしいです。聞こえにくい、聞こえない人の自己負担を強いることなく、ストレスなく利用までの手順をふめるような配慮もして、「コンサート手話」通訳をつけることが当たり前になるような社会構造、人々への認知・周知を求めます。 公平に機会を楽しむために必須だと思います。 また、コロナ後遺症でも増えてきているようですが筋繊維痛症の人や、ずっと立っていられない人(障がい者、見た目に分かりにくい病気、症状の人など)のためにコンサートや演劇会場では立たずに座って観ることを基本とするようにしてください。体力のある立ったままでいられる人が座ることで、人間の森に埋もれて観れない人がいなくなります。座ったままで上半身を動かして楽しんだり踊ることは可能だと思います。全ての機会で今すぐ実行することは難しいかもしれませんが、こういう視点を会場利用する全ての人に周知することは直ぐにできると思います。そして、その先の目指す社会は、皆が座って観るエリアを会場内に設けるとか、公演中ここは立つ時間と設けてもいいでしょうし、色々なグラデーションがあると思います。よろしくお願いします。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見として承ります。 No.13 (案に対する御意見の要旨) 化学物質過敏症患者が障害者差別解消法上の「障害者」に該当することをガイドライン上で明記してほしい。 化学物質過敏症・香害等について、合理的配慮の例等を記載いただきたい。 また、公共施設等の衛生事業者において、においを発するものをトイレなどの施設内、従業員の服等に使用しないようにしてほしい。その他次に掲げる事項を実施していただきたい。 ・ 合理的配慮として、職員は原則、衣服には石けん洗剤や重曹、セスキなど人にも環境にも優しい洗剤を使うよう義務化すること ・ 公共の場所では、禁煙と同様に、無香料での対応が可能なスペースと人員を確保すること(トイレに置くハンドソープの無香料化、芳香剤をなくす、消臭・抗菌効果のあるスプレーを使用しないこと、無香料の席、部屋等を準備する等) ・ ポスター等による化学物質過敏症・香害に関する普及啓発 ・ 個人宅へ訪問する事業者に対しても、企業側が香料や化学物質への配慮を行い、原則合成人工香料を含む洗剤および抗菌除菌消臭成分を含む洗剤等の使用を原則禁止するように対応すること ・ ヘルプマークのように、「化学物質過敏症マーク」を作ること ・ 店舗内やスタッフの無香料・ケミカルフリーの義務化、罰則の規定 ・ 従業員に対する化学物質過敏症等に関する教育の義務     化 ・ 施設の排気口ににおいが外に出ないようにフィルターを付けること ・ 人を集める施設、興行主催者側から参加客へ向け事前に「香り付き製品自粛」のお願いを出すルールを作ること ・ 香りの強い顧客を断る指導 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 障害者の定義については、障害者基本法をはじめ、法や基本方針に基づき記載しているため、原案のとおりとさせていただきます。  なお、柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がするという相談が消費生活センター等にあることを踏まえ、現在、消費者庁において厚生労働省を含む関係省庁と協力のもと啓発ポスターを作成し、周知啓発を図っております。 No.14 (案に対する御意見の要旨) とにかく香害がひどすぎる。香料だけでなく、抗菌消臭の薬剤で瞬時に体調が悪くなるだけでなく、香りも不快で、コンサートや各種施設や電車が使えないトイレも芳香剤で苦しくなり使えないことがある また昨今の女性軽視も深刻で、女子トイレへの侵入や盗撮を防ぐのは前提だが、車椅子の女性の被害も大きいので車椅子用トイレも女性用を分けてあげてほしい。 誰でもトイレだが、子ども連れでの利用だけでなく、車椅子の人でも、使用を批難された例も見聞きした。「誰でも」に健常者も入ること、電車の優先席を思い切ってなくして、「誰でも使っていい!だが同時に怪我や病気等の人へ譲るのは思いやりではなく人としての倫理だ」ぐらい強く言っていいと思う。 (御意見に対する厚生労働省の考え方) 御意見として承ります。 No.15 (案に対する御意見の要旨) 1意見の趣旨 @本改正案に新設ないし改定されている「正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」は全て削除すべきである。 A「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」を挙げる場合は、拡大解釈されないよう十分注意した上で慎重に行うべきである。 2意見の理由 (1)対応指針においては、正当化事由の具体例を示すべきでない。なぜなら、差別的取扱いの事例は合理的配慮の提供により、区別、排除又は制限等を回避でき、合理的配慮の不提供の問題に集約される場合がほとんどであり、正当化事由の適切な具体例が見当たらないこと、また、正当化事由に当たるか否かは事案ごとに異なり、その多様性が大きいにもかかわらず、正当化事由に当たる具体例を挙げてしまうと、そのような場合は一律に正当化事由に当たるとの誤解や拡大解釈を招き、障がいのある人の権利保障が後退しかねないからである(2015年7月16日付け当連合会「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律のガイドラインについての意見書」8頁及び2023年1月12日付け当連合会「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(改定案)に対する意見」を参照。)。 詳解するに、「正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」の一つ目として本改正案に示されている、「手続を行うため、障害者本人に同行した者が代筆しようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の手続の意思等を確認すること」という例は、本人の意向確認と合理的配慮の提供の必要性という異なる聞題が混在しており、読み手に問題の所在を混乱させる恐れがある。同行者が代筆しようとした際に本人の手続の意思等を確認することは、本人の意思確認であり、そもそも差別的取扱いが問題となる場面ではない。また、「プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況」を確認することについては、「障害の状況等を確認する」ことが差別的取扱いに当たらないと整理するのではなく、「障害の状況等を確認」し合理的配慮を提供することが適当な例として挙げるのが適切であり、「正当な理由がある」例として列挙するのは不適切である。 二つ目の、「客から障害者である他の客に関する申出があった場合に、その障害の特性について説明し、不安を払拭するような声かけを行うこと」は、「他の客に対する声掛け」であってそもそも障害者に対する差別的取扱いとはいえず、「不当な差別的取扱い」に該当するか否かが間題となる場面ではないから、ここに挙げるのは不適切である。 三つ目の「実習を伴う講座において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該実習とは別の実習を設定すること」という例は、「具体的な危険の発生が見込まれる障害特性」の内容が不明確であり、障害が「具体的な危険」を包摂するものという誤解を与えかねない表現であるから削除すべきである。 四つ目の、「飲食店において、車椅子の利用者が畳敷きの個室を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと」という例は、「敷物を敷く」ことが差別的取扱いに当たらないと整理するのではなく、「敷物を敷く」ことを一例とする合理的配慮を提供することにより障害者も個室を利用することができる例として挙げるのが適切であり、「正当な理由がある」例として挙げるべきではない。 A本改正案の別冊「旅館業の施設における障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の例」において「不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」として挙げられている「知的障害者の中には、食事がビュッフェ方式の場合、会場が大人数になることで不安定になってしまう人もいることから、食べる分量を客室に持ち帰って食べられるような配慮など必要な配慮を、宿泊予約時やチェックイン時に聞き取ること」という例については、「必要な配慮を聞き取る」ことが差別的取扱いに当たらないと整理するのではなく、合理的配慮の例として挙げるのが適切であり、「正当な理由がある」例として挙げるべきではない。 また、「車椅子等を使用して宿泊する場合、著しい段差が存在し、スタッフが補助を行っても施設内の移動が困難等の理由により、宿泊可能な部屋や他の宿泊施設を紹介する」という例についても、宿泊可能な部屋を案内するなどの合理的配慮の例として挙げるのが適切であり、「正当な理由がある」例として挙げるべきではない。 さらに、「ホテルのスタッフの本来の業務に付随するものではないため、食事・化粧室の利用等の長時間にわたる介助が必要な宿泊者に対して、付き添いの方の同伴を求める」との例は、サービス提供に当たって、障害を理由として、付添者の同伴という、障害のない者に対しては付さない条件を付することにほかならず、「不当な差別的取扱い」に該当する典型例である。むしろホテル側としては、障害のある客から食事・化粧室の利用時における介助等を求められた場合に、合理的配慮の提供の可否を検討すべきこととなるのであり、少なくとも付添者の同伴を宿泊の条件とし、これが満たされない場合に宿泊自体を拒否することは許されない。 以上のとおり、本改正案で挙げられている「不当な差別的取扱いに該当しない」と考えられる事例は、いずれも提示事例として不適切である。 (3)「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」を挙げる場合は、拡大解釈されないよう十分注意した上で慎重に行うべきである。 この点、本改正案において「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」として挙げられている「事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること」は、「事業の一環として行っていない業務」の内容が不明確であり、そのため、本来、合理的配慮がなされるべきであるにもかかわらず、「事業の一環として行っていない業務」であるなどとして合理的配慮が提供されない事態を招きかねない表現である。誤解や拡大解釈につながる危険性が極めて高く、不適切であって、例として挙げるべきではない。 さらに、合理的配慮の提供義務に反しない例を挙げる場合は、このように影響が大きい対応指針に記載するのではなく、より具体的な内容を記載することで、事例を十分精査でき、判断要素や判断過程を書き込むことのできるマニュアル等に記載するべきである。 以上 (御意見に対する厚生労働省の考え方) @について  御意見の箇所のうち、1点目、3点目及び4点目については、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)に基づき記載したものであるため、いずれも原案のとおりとさせていただきます。また、2点目についても、改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会において事業者団体や障害者団体、学識経験者など様々な委員により、委員以外の複数の障害者からも意見を聴取した上で、議論がなされ、「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」の双方を示すとともに、個別の事案ごとに正当な理由に該当するか否かの観点等を踏まえて判断すべきことを明記しているものです。 Aについて  御指摘の事例については、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)においても、「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例」の一つとして、「飲食店において、食事介助等を求められた場合に、当該飲食店が当該業務を事業の一環として行っていないことから、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点)」と記載されていることを踏まえて記載したものであり、原案のとおりとします。 なお、御意見の箇所は、改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会において事業者団体や障害者団体、学識経験者など様々な委員により、委員以外の複数の障害者からも意見を聴取した上で、議論がなされ、「該当すると考えられる例」「該当しないと考えられる例」の双方を示すとともに、個別の事案ごとに正当な理由に該当するか否かの観点等を踏まえて判断すべきことを明記しているものです。 ※上記のほか、38件の今回の意見募集に関係ない御意見をいただきました。